スポーツと心の健康・地域で生きる

新宿区後援・9月新宿フレンズ講演会
講師 社会福祉法人東京ムツミ会ファロ所長・精神保健福祉士 徳堂泰作さん

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【地域で自分らしく生きるために―ファロの紹介】
 
最初に事業所ファロや新宿区の社会施設を紹介し、後半にスポーツについてお話します。
 社会福祉法人東京ムツミ会ファロの目的は、「地域で生活する精神障害のある方々が自分らしく生きるために、一緒に考え、実現していく」です。ファロとは、スペイン語で灯台という意味で、人生の道しるべに…という思いを込めました。
 ファロの前身はムツミ第二作業所です。新宿フレンズ先代会長と家族会の有志の方々が私財を投じて、昭和60年に新宿区で最初の作業所、ムツミ第一作業所を作られたのです。私は昭和63年に職員として入職、その後作られたムツミ第二作業所に移り、社会福祉法人を取得して現在のファロに至ります。
 現在、ファロの在籍者は75名、23~78歳で平均45歳です。男女比は半々で、障害種別では統合失調症が6割強、気分障害、双極性、発達障害、アディクション(依存症)などが各1割程度。発達や知的の軽度障害がベースにあって二次的にうつ病や統合失調症になった方々が増えています。
 職員は私を含めて常勤が6人、非常勤が4人です。通所者さんとの情報共有や共感が大事ですので、相談者を選べる体制をと様々な年代の職員を揃えています。
 ファロは終の棲家ではないので、次のステップに進むために「会社ってどんなところ?」「どんなふうに採用されて、どのように働くの?」という情報を知りたい方がたくさんいます。私自身は福祉の専門学校でそのまま福祉職ですが、職員2名以外は一般企業や公務員や看護師など、あえて異業種から採用しています。

【就労に向けての取り組み】
 
事業としては就労継続支援B型事業と地域活動支援センターを運営しています。障害者雇用での就職者が増えましたが、1年以内で辞めてしまう。知的・身体障害者の離職率は約1割ですから精神は非常に多い。10人勤めて6人辞めます。理由を聞くと大概の方は「人間関係」と答えます。
 せっかく就職しても、すぐ辞めて自信をなくしたり再発したりでは不幸なことです。人との関わりの苦手意識を少しでも克服してから就職をと考えて、「働くことを通して、人との関わりを学ぼう」を目標にしています。
 ファロでは、企業や新宿区から内職仕事を受注しています。工賃は時給150円くらいです。一昨年から総合支援法が変わって、B 型で働く人たちの年間平均工賃の金額に応じて国の支援費の金額が段階的に細かく分けられました。工賃が月平均1万円以上出せない作業所は軒並み減額という状況で、ファロも年間200~300万円ぐらい支援費が減額になりました。
 行政からの下請けの仕事は週1回の公園の清掃、新宿区が設置した路上消化器消火器の点検、公園の花壇の整備、防災広場の防災用品置き場の周りの掃除、路上禁止の立て看板の掃除も請け負って、外で体を使って働きます。
 新宿の地場産業である印刷業や出版社、商店街のフリーペーパー、ダイレクトメールや機関紙の封入発送もあります。
 自主製品では七宝焼きの制作販売も行っています。今年から新しい仕事として蜜蜂を飼って蜜を販売する養蜂作業を始めました。

【居場所としての地域活動支援センター】
 地域活動支援センターの目的は、レクリエーションを通して人との関わりを学び大事にしていくことです。働く意欲がまだ湧かない人や、もう十分働いた方々も過ごせる居場所です。
 月曜日は創作関係で、絵画教室や七宝焼、近隣に芸術活動を広めようというNPOがあり、そこで芸術活動を楽しんだりしています。
 火曜日は簡単料理。家に調理器具も包丁もない、電子レンジだけという人もいます。身体疾患では糖尿病、心疾患や脳疾患を起こす方は少なくありません。体を整え、少しでも栄養のバランスを考えた食事が取れるように、栄養士に月に1回来てもらって勉強します。
 水曜日は音楽鑑賞で、アマチュアの方ですが生演奏をして下さいます。
 木曜日は体力作りでヨガ教室やエアロビクス、リズム体操など、介護予防にもなります。
 金曜日は、引きこもっている方が少しでも外に出られるように「何もやらなくても良い。ただ時間と空間を共有しましょう」と、隅っこで本を読んでいてもテレビを観てもゲームを楽しんでも良いという形で、自由に過ごす日にしています。季節の良い時には、近くの新宿御苑へ散歩に行ったりもします。
 通所者の悩みごとを個別に相談を受けることも大きな柱です。ファロに登録していない一般の方向けの相談事業もしていて、電話や来所で受けます。最近は「学校で上手くやれない」と、発達障害と言われた生徒が先生と一緒に来ることも増えています。
 相談事業の一つとして居住サポートをしています。1人暮らしをしようと「自立するための場所を探したい、でも自分で部屋を探すのは大変」という相談です。新宿の地価はどんどん上がっていて、安い家賃の物件を探すのはすごく困難です。

【新宿区の社会資源
 身体・知的・精神も含めての事業所は、新宿区には67か所あります。ファロのようなB型そしてA型の就労継続支援事業所は44か所で、そのうち精神は33か所です。他に生活訓練施設、グループホーム、日中ショートステイなどの事業があります。
 就労移行支援事業所は区内に20か所、そのうち14か所は株式会社や一般社団法人などの営利企業です。他区に比べて営利企業の参入している率が多いのが新宿区の特徴でしょう。障害者雇用は100名以上の企業規模で2.2%、つまり2人以上の雇用と法律で決まって以来、障害者就労の支援事業を始めた派遣会社などがたくさんあり、これら民間企業型は新宿駅や新宿三丁目の周辺に多いです。
 一方、最初に精神障害者の作業所ができたのは高田馬場周辺、次は落合です。また精神障害者も生活保護で生活している人は、53,700円という上限額の中で部屋を探すわけで、同様に地価の安い落合や中井あたりに集中しています。

 統計によれば精神障害者は毎年増えています。精神疾患は2011年に厚労省の五大疾病の1つにようやく認められましたが、日本で323万人(2008年患者調査)です。糖尿病が237万人、癌152万人、脳血管疾患134万人、虚血性心疾患81万人で、精神障害者はこれだけ数が多いのに国が認めて来なかったこと自体に問題があると思います。
 精神疾患を未然に防ぐためには学校教育が重要で、子供自身も家族も教師も精神疾患やストレスについて勉強する機会を作らなくてはと思いますが、まだ進んでいないが現状です。

【事業所の独自の取り組み】
 「新宿区障害者福祉事業所等ネットワーク」は身体・知的・精神の事業所が連携した団体で、約30事業所が加盟しています。路上生活を送っていて保護された人の社会復帰をめざす訓練所の人たちとも連携して、社会に出て行くきっかけを作っていけたらとこの団体を作りました。愛称は「しんじゅQuality」です。
 平成28年5月にプロジェクトを立ち上げ、それぞれの事業所で作っていた七宝焼、クッキーやパン、アクセサリーなどの自主製品をデザイン性やクオリティを高めて社会に発信するプロジェクトを始めたり、受注作業も1つの事業所では2千ぐらいが限度ですが、事業者が共同して2万という数を請けて企業と繋がったりしています。
 ネットワークを作る上で大切にしたことは自主性です。今までに行政主導でのネットワーク作りはありましたが、自分たちでやろうということです。障害者総合支援法になって各事業所の公的な補助金が減額され、事業所が生き残るには自分のところだけで頑張るのでは限界があり、横の繋がりで共同する意識を大事にしています。
 新宿区勤労者仕事支援センターが事務局で、企業からの仕事の情報が来た時にできそうな事業所に配分しています。それをもっと組織化する取り組みを進め、情報も予算などを含めてできるだけ公開、可視化しています。

【自治体で違うサービス】
 社会資源の数や公的なサービスの質は自治体によって違います。23区もバラつきがありますが、保健センターや保健所が障害者の行政窓口になることが多く、新宿区は保健センター1、保健所4という形で保健師の活動も維持されています。しかし市部や23区では、統廃合されて保健センターはほぼ行政手続きの窓口だけで、サービスに関しては民間委託という自治体もあるなど差があります。
 住環境では市部の方が当然、家賃も安く広いところに住むことは可能です。しかし福祉サービスでは訪問看護やヘルパーの事業所の数が違ったりサービスの質も色々で、新宿で生活保護を受けていても、生活保護移管がスムーズにいかない自治体も結構あります。引っ越す場合はそこの自治体をよく調べ、引っ越し先の福祉の専門家や家族会などで相談される方が良いと思います。

【スポーツの場を作る】
 私は若い頃にスポーツを通して人との繋がりや社会常識を学んできて、その良さを感じていました。それで精神障害のある方々をサッカーやフットサル(5人制のサッカー)で支援したいと思って、「日本ソーシャルフットボール協会」*の立ち上げに携わり、今も関わっています。チームは全国に160ぐらいあって約2,000人が楽しんでいます。色んな障害の人が参加していて、最近は統合失調症、発達障害の方が増えています。
 年に1回の全国障害者スポーツ大会は、パラリンピックのように国体開催時に開催地で併行して行われていますが、あまり光が当たっていない。精神障害の公式競技は、唯一ソフトバレーボール1種目が認められているだけです。
 障害者スポーツが盛んな地は、事業所数の多い東京都です。バレーボールが正式競技に選ばれたきっかけも、以前から東京大会を開催してきた実績があって正式競技になったという経緯があります。私も東京都の精神障害者共同作業所連絡会の役員だったので、バレーボールの仲間たちに「フットサルもやろう」とお願いしてスタートさせました。
 日本精神スポーツ医学会は、精神科医、理学療法士、作業療法士、看護師といった医療系が多いのですが、サッカー好きの医師が全国大会をという話を持ちかけて、2013年に「日本ソーシャルフットボール協会」という全国組織ができたという経緯です。なぜ「精神障害者サッカー協会」にしなかったか。大阪の団体がイタリアに行ったら、精神障害者だけではなく、性や貧困など社会に障壁を感じている様々な人たちが混ざってサッカーを楽しんでいたそうです。我々も将来的にはそうしたいと、イタリアの会の名のソシアルの英訳でソーシャルと名付けたわけです。
 精神障害者のスポーツのもう1つの特徴としては、潜在的な競技人口がとても多いことです。障害者サッカーは、知的障害、CP(脳性麻痺)、アンプティ(切断障害)、電動車椅子(重度障害等)、ブラインド(視覚障害)、聾者(聴覚障害)、それにソーシャルフットボール(精神障害)があり、障害の人口が一番多いのが精神障害者です。
 地域大会、全国大会、国際大会へと組織作りをして、2年前に大阪で第1回の国際大会をやりましたが、イタリアとペルーと日本だけでしたが、昨年のイタリアでの第2回大会は10か国が参加、来年はペルーです。
 各地のチームは、事業所や病院のデイケアやリハビリがレクリエーションとしてフットサルをやり始めたところが多いです。病院のデイケア等は卒業があり、その後に自主運営するクラブチームが増えてきました。例えば東邦大学の若者向けデイケア、イルボスコを卒業した人たちのボスコネクストがそうです。東京都ではクラブチームが7チームあり、オレンジソックスは障害の有無に関係なく、試合後にバーベキューなども楽しんでいるチームです。

【仲間づくりが自然にできる】
 スポーツは、最初は障害への偏見や違和感があったとしても、やっているうちにどんどんなくなって行きます。精神疾患のある人と関わることは難しいと思っていた人たちも、気づいたら普通のチームメイトとして肩組んで喜んだり失敗して悲しんだり、色々な感情を共有できます。集まればいざこざもありますが、それも1つの学びです。
 10代中頃に発病して学校も行けず引きこもっていたような障害者が、フットサルで仲間が出来るのは素晴らしいことで、泣いたり笑ったり青春を改めてやっていると言う方はとても多いです。
 精神疾患で社会的機能が低下して自信をなくし、人との交流を避けて仲間や居場所もなくし引きこもっていく構図を、スポーツをやることでまた人の中に入って、社会的機能の回復向上や自信を取り戻して対人交流も積極的にできるようになって、仲間や居場所を獲得していくことができるようになる。共感し励まし合う中で障害者も自信を取り戻し、生活の改善や意欲につながり、次のステップへ進んで行けます。
 フットサルに出合って競技スポーツや全国大会出場を目指し、自信を獲得して就職した人や、大会を運営するお金をクラウドファンディングで寄付してもらったり、大会の運営もプレイも自主運営する。
 自分たちが好きなスポーツだと、仲間づくりも自信の獲得もやりやすいと思います。
 ストレス社会で15人に1人はうつになる、年間3万人の自殺者、企業ではパワハラ・セクハラが問題視され、障害の理解の不足など世の中の課題を、スポーツを通して少しでも無くしていけたらと思っています。

【体も心も健康に!】
 
医学的に見ても、スポーツが認知機能の向上などの身体的なものに与える良い影響があること、うつ病の場合も、ある程度の負荷をかけた運動を定期的に行うことで、うつが改善されやすいと、最近の研究の成果として出てきています。
 医学的な検証はまだ少ないのですが、運動がメンタルにプラスに働く研究もあります。チームプレーですから仲間を思いやる行動や思考が出てきて、皆で支え合うことが再発予防につながる。引きこもっていると自分だけに焦点が行くことが多いのですが、仲間といると他者への思いがしぜんに芽生えてきて、それがプラスに働くことが多いと感じています。そして自分の夢も実現していくことが、スポーツにはできます。
 スポーツでも、音楽でも芸術でも好きなこと、自分が熱中できるものを1つでも見つけて、仲間と集まって一生懸命やる。それが凄く大事だと思います。
 支援者としては、今後もそういった場を少しでも増やしたい。新宿区では「スポーツ環境会議」があり、高齢者から子供まで障害のあるなしに関係なく、すべての人がスポーツを楽しむにはどうした良いかについて話し合っています。
 新宿コズミックスポーツセンター*では、毎月第4木曜日の夕方5~6時半、7~8時半の2部制で、卓球とフットサルは障害の有無に関係なく100円で楽しめます。内部疾患で障害者手帳を持ちながら60歳からフットサルを始めた方もいます。
 土曜日は、年齢も様々に障害の重い方でも楽しめる、ボッチャというパラリンピックの正式種目のスポーツの時間もあります。
 障害者スポーツはドリームバスケット*など他にもいろいろあるので、ぜひ参加して人と繋がり、自分を取り戻して仲間とスポーツを楽しんでください。

                                             ~了~

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法    

新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

 15号、19号と台風被害は日を追うごとに、その大きさに驚かされた。被害直後、当初数人だった死亡者の数は、最終的には77名に及んだ。浸水被害は都内そして近県におよび関東の防災対策の甘さが再認識されたようである。

 当会でも十月定例会の十月十二日、19号と重なり、前日からどうしようかと役員間で話し合った。会長、副会長が会場に詰めて、来た人にビデオでも見てもらおうかという意見で前日は終わった。しかし、夜が明けてテレビのニュースを見ていると、予想以上の台風であることが判り、この雨と風の中、恐らく来る人もなかろうと、障害者センターに電話。そして、定例会は休止となった。50年近くになる新宿フレンズの歴史の中で、休止になったのは初めてであろう。会員の皆さまに台風の被害はなかったであろうか。そう願っている。

 さて、今月は遅くなったがファロの徳堂氏からスポーツと心の健康・地域で生きると題して作業所の実態とスポーツの魅力を縷々述べていただいた。スポーツの「心に与える影響」とは、社会機能の回復向上を図り、対人交流ができるようになり、仲間や居場所を獲得すると述べている。

 多くの当事者が引きこもり、友だちを失っていく状況がある。同じ人生と言う時間を過ごしながら、ひとり部屋に閉じこもっている彼らに、スポーツに関心を持っていただけたらと思うのは全くの同感である。しかし、それが理屈で分かっているが、その一歩目が出ない。

 徳堂氏は言う。仲間といると他者への思いが自然に芽生えて来て、それがプラスに働くと。そう、焦ってはいけない。自然に芽生えるのを待つところが大切なことなのだ。