精神疾患と健康withコロナ時代の身体管理とストレス管理

新宿区後援・4月新宿フレンズ講演会
講師 大泉病院社会医療部長 山澤涼子先生

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【精神疾患を持つ人にとってのリスク】
 
コロナ感染者の減らない日々ですが、精神疾患をお持ちの方が体の病気になった場合についてお話しします。まず、コロナ感染のリスクですが、精神障害者が特にコロナに感染しやすいという話は出ていません。
 精神疾患を持った人のリスクでは、認知機能障害と関連して感染のリスクを正しく認識するのが難しい、正しい情報にアクセスするのが難しい、人によってはマスクや手洗いを正しくすることが難しい、グループホームや入院生活などは密になりやすい、などがあげられます。精神科病院でのクラスターの発生は幾つもありましたが、ほとんどは高齢者の多い病院でした。
 逆に日常的には良いことではないのですが、精神疾患をお持ちの方は人が集まるところに行くのが苦手で、家にいることが多くて社会とのつながりが少ない方もあって、それは感染するリスクを下げているといえます。
 ただし、万が一、感染した場合のリスクがとしては、コロナ以外の病気でも同じことですが、援助要請(help-seeking)つまり上手に助けを求めることが難しい側面があります。まず本人側の要因として、体の症状に気付きづらい方がいます。逆に敏感な方もいるのですが、例えば悪性腫瘍で「ここまで酷くなったら痛みが出ていたんじゃないかな」と思われるのに、本人は何も訴えず、検査で初めて分かる。また気付いても「ここが痛む」と説明することや、適切な人に言うことが苦手な人もいます。

【体調が悪いと気づいたら】
 もし、体の病気ではないかと気づいたら2つの方法があります。とりあえず普通に内科を受診する、または主治医に紹介状を貰って受診する。迷ったら主治医の先生に相談するのが良いでしょうが、本人が上手に症状を言える場合は、近くの内科にかかって全く問題がないと思います。
 本人がきちんとご自分の症状を話せない場合、特別なケアが必要な方は、主治医に紹介状を貰ってから、受診に行った方が良いと思います。しかし、いつでも紹介状を持って行った方が良いかというと、「精神疾患がある人は診られません」という医師もいて、かえって面倒になってしまう場合もあるので、本人が普通に症状を話せるなら、ご自身で受診する方がよいでしょう。

【重症化しやすいリスク】
 コロナに感染した場合、合併症があると重症化しやすいと言われています。精神疾患があると重症化しやすいわけではないのですが、残念ながら統合失調症の方はそうした合併症を持つ人が多いのです。肥満が半分近くの人にあり一般の人の2倍近く、喫煙者も2,3倍多く、肥満や糖尿病、高血圧、脂質異常症(高コレステロール)を持っている人が多いので重症化しやすいのです。
 なぜこうした合併症が多いのか。陰性症状が関わっていることが多いのです。興味や関心の低下で運動不足になり易い。デイケア等にきちんと通って体を動かしている人は良いのですが、家に閉じこもっていると、生活のリズムが乱れやすく、間食も多くなる。抗精神病薬のオランザピン(ジプレキサ)や、クエチアピン(セロクエル)は、食欲が出やすく、糖尿病のリスクがあります。また、ストレス対処法もいろいろ楽しみがあれば良いのですが、あまり上手でないと一番簡単な解消法が食べることで、そこに頼りやすいこともあり、どうしても太りやすくなります。

【社会全体へのメンタルヘルスの影響】
 精神疾患のあるなしに関わらず、メンタルヘルスへの影響を考えてみたいと思います。
 コロナウイルスは、SARSのようには死亡率は高くないのですが、病気にかかってしまう恐怖は皆さんお持ちだと思います。だんだん冷静になって来たとは思うのですが。
 また、かかった場合に「あの人コロナらしいね」という差別に遭いたくないという思いもあるでしょう。地方でその地域で初めてかかった人が酷い目にあったという話もあり、職場での差別や、保育園での差別につながることを恐れたり、また隔離されるので大事な家族に会えなくなったらという恐怖感もあるかと思います。
 正しい情報から間違った情報、煽りの情報まで溢れ、ことにテレビはコロナのニュースや番組ばかり。「こうすべき」のご意見も玉石混交、賛否両論で、過剰な情報に疲れ、ストレスフルだったかと思います。SNSに触れる時間が増えれば増えるほど、メンタルヘルスの発生リスクが上がるという研究もあります。
 皆さんの生活がどう変わったか。在宅ワーク、マスクが夏も続きそう、帰省できない、飲み会、ジムやカラオケの閉鎖で友達がいなくなって、ご家族とだけ一緒の生活になっているでしょうし、毎日食事も家で…になります。
 アルコールはまとめ買いが増えています。飲み屋さんに行かないから外飲みが減った分、家でというのもありますが、心配なのは日中の飲酒が軒並み増えて、量も増えています。ちょっと仕事が一段落するとつい飲んでしまうとか、あまり良くない傾向が出ています。
 DVや児童虐待が増えています。毎日家にいるとイライラして、DVそのものは年々増えていますが、児童虐待はずいぶん増えてしまって、お子さんが日中、保育園や学校に出かけていることがいかに大事かと分かります。
 分からないものを怖がるのは、生きるために必要なことですが、2020年の死者数の統計を見てみると、コロナ禍にもかかわらず例年よりも減っています。死亡者数は高齢化に伴って毎年2万人ずつ増えていたのですが、それが9000人減りました。
 肺炎が1万人くらい減り、インフルエンザも流行しない。マスクや丁寧な手洗いが予防になり、小児科の先生などは患者が減って潰れそうだとの話があるくらいです。冬にインフルエンザで忙しい救急の医師は「毎年これくらいマスクや手洗いをしてくれれば良いのに」と言っています。心疾患が減っているのは、外に出ないので温度差や、運動中に唐突に起こる死亡も減ったわけです。事故も減りました。一方、悪性腫瘍の死亡は、年々増えていて、その傾向は変わりません。

【精神疾患を持つ人への影響】
 入院そのものが制限されています。例えば感染が陰性と分かるまで個室なので個室数だけしか受け入れられないという病院もあります。
 電気けいれん療法(ECT)はコロナの疑いがない人のみ、難治性のクロザピン治療は白血球が減る場合があるので毎週の血液検査が必要で、コロナ禍で毎週の通院は嫌だという人も多くて導入のハードルが上がりました。心理教育・SST・集団精神療法・作業療法などリハビリプログラムも集まれず1対1の個別対応になり、正しい情報は伝わっても、患者同士のピアの力が削がれました。
 外出や外泊、面会が制限されて、その結果、充分なリハビリ期間を経ずに退院するため、退院してもすぐ再入院になってしまうという影響も出ています。
 通院患者は、通院の頻度が減ってしまい、デイケアや事業所などの通所日数も減って在宅の日が増えました。
 他人と接触する機会も減って、訪問看護も家の中に入っていたのに玄関先、提供されるサービスの制限もありました。施設でも万が一クラスターが出たら閉鎖なので、そうならないように対策するためです。

【健康的な生活のために】
◆正しい情報を得る 何が正しいかは難しいのですが、ニュースだけにしてワイドショーは見ない方が良いかもしれません。ウェブサイトでも厚労省のHPなど、公的なところのほうが間違いが少ないです。

◆感染症の情報に触れすぎない テレビでもSNSでも、正しそうな顔をして間違った情報を伝えるところも多いので要注意です。

◆信頼できる人とコンタクトを取り続ける 通院・通所はできるだけ定期的に行くほうが良いのです。医師からは流行の状況、こういうウェブサイトを見ると良いとか、正しいマスクの使い方、消毒の仕方などを伝えていくのも大事かと思います。信頼できる人と連絡を取り続けるほうが安心できるでしょう。

◆きちんと相談する 定期的に会っていれば相談もしやすいです。心配なことは主治医にたずねられます。

◆健康的な生活を送る 感染はほとんどが飛沫で、接触感染は限りなく低いと分かってきました。手洗いとマスクをきちんとすることでずいぶん防げます。

 しかし、ウイルスなので絶対に100%防ぐのは無理ですから、感染する可能性はあります。そうした時に健康な体を作っておくことが大事です。かかった時にそれに打ち勝つ健康な体を作っておくことが大切です。

規則正しい生活をする:在宅であっても、決まった時間に起きてパジャマから着替え、生活にメリハリをつけ、入浴もしてください。アルコールは控えて適度な運動をし、人とも電話やネットも利用して交流してください。

質の良い睡眠をとる:夜に眠れないという人は、まず寝たい時間の15~16時間前に起きてください。お昼近くに起きたら、眠くなるのは夜の3時ごろです。8時に起きても二度寝すれば夜は眠れなくて当たり前です。夜10時に眠りたいなら、朝は6時か遅くとも7時には起きて、自然光が大事なのでカーテンを開け、陽を浴びて体内時計をリセット、朝食で脳のエネルギーを取ります。
 就寝前の食事、コーヒーや紅茶、緑茶は厳禁。寝酒、喫煙も目が覚めやすくなりますので、質の良い睡眠がとれなくなります。

食生活も健康的に:免疫力を上げるためには、何かだけ食べると体に良い、ということは絶対にありません。免疫力をあげるなら、トータルに野菜、たんぱく質、穀類などをバランスよく、規則的な食事が望ましいです。野菜を多めに、脂っこいものは控えめに、薄味のおかずをゆっくり食べて腹八分目にします。甘いものは極力控えて、間食や夜食はなるべく食べないことです。

適度な運動はとても大切:質の良い睡眠眠と規則正しい生活のためには、運動が大切です。体を動かすと、眠りの質が良くなります。運動は免疫力を上げ、体力維持のためにも、テレビやネットの情報から離れるためにも、趣味の楽しみとしても、ストレス解消の手段にもなります。

 何も考えずに淡々とやる有酸素運動のウォーキング、ジョギング、サイクリングなどはストレス解消に有効とされていますので、ぜひ時間を決めて体を動かしてください。ランニングの時にマスクをするかどうかは、屋外で運動をするときは、マスクは持っていてお店に入る時などにつければよいと思います。リラクゼーション効果のあるヨガ、ストレッチ、テレビを見ながらスクワットなどは家でもできますね。人との交流を保つ:家族だけでは煮詰まってくるので、他人との接触も大切です。友達と会うだけが交流ではありません。マスク着用、手洗いなどの基本的対策は必要ですが、通院の外来受付の人、いつも行くなじみのお店の店員、近所ですれ違う人と挨拶を交わすなど、ちょっとしたコンタクトも有意義です。なかなか祖父母と会えないご家族は、スマホやPCで、ラインやスカイプ、ズーム等の利用も有効でしょう。
 また、きちんと感染対策をとっている場所への外出、例えばデイケア、デイサービス、作業所などは怖がらずに、通所・通院をした方がむしろ健康を保てます。健康的な生活が何よりのコロナ対策です。
 なお、精神疾患の患者さんは、なかなか自分の体の変調に気付きにくい、気付いたときは手遅れになり易いところがあるので、定期的なデイケアも通院も電話では済まさずに、1人暮らしの患者さんには、訪問看護を続けてもらい、何かあった時にどういうところに連絡をするか等も話し合っておくと良いと思います。
                                           ~了~

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法    

新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

 またまたコロナの話で申し訳ないが、今、街を歩く人のマスクの徹底ぶりに感心する。街を歩るくのにマスクなしでは歩けない。しかし、人通りの少ない道でもマスクをというのはいかがかなと思う。それでいて、自宅に入ると多くがマスクを外すのではないか。ま、それでも漸次患者数は減りつつあるのが救いである。これでオリンピック・パラリンピックは開くのか開かないのか。まだまだ予断は許されない。

 今月、フレンズの図書コーナーに3冊の新刊が入った。どれも読みたい本であるが、時間の関係で夏苅先生の「精神科医療の7つの不思議」だけを読ませて頂いた。実にストレートに患者、家族の声を代弁してくれている。それもそのはず、夏苅先生ご自身の体験を元に書かれているからではないか。先生は患者であり、家族であり、医療者であるという特殊な立場でもあるのだ。

 その中で気づかされた記事があった。「研究に患者・家族の参加を」である。つまり、精神医療の研究を研究者任せにせず、自分のこととして研究の計画や実施に参加して意見を言うべきだ、という考えである。

 それは単に研究に協力するということでなく、その研究は科学的に必要で妥当か、その根拠は何か、ごまかさずに胸を張って言えることかを確かめる必要があるとしている。患者・家族は研究者の「科学する欲望」を大切にしながらも、その欲望を監視する役割があると思うと結んでいる。

 我々は皆、ある日突然のごとく、この病気について知らされる。まさかわが子が、わが愛する妻が。一瞬茫然自失となるが、そして、勉学が始まる。暗中模索の中で得る知識。その中で夏苅先生の本は大いに参考になるだろう。